音楽を憎しむ

書いた人: うーはいうぇい

我執を捨てたい。というわけでここに不法投棄させていただきます。うーはいうぇいです。

最近、伊藤計劃の『虐殺器官』を今更ながら読みました。その巻頭にパスカル・キニャールの『音楽への憎しみ』という本の一節が引用されていたので、図書館で借りて読んでみました。

秒で挫折しました。

しかし題名は気に入ったので、パクりつつ、本稿では私が今年聞いていた音楽について述べたいと思います。私は音楽について教育を受けた人間でもなければ、各ジャンルやバンドに通暁しているわけでも無いので、ガバがあっても生温かい目で大目にみてください。何卒。

ゆらゆら帝国

ゆらゆら帝国、通称ゆら帝は「東方幻想郷」が頒布された年にメジャーデビュー、「ダブルスポイラー」頒布と同時期に解散したサイケデリック・ロックバンドです。ゆら帝は活動前期と後期でかなり音楽性が変化しているのですが、ここでは私が今年よく聞いていた、後期の曲の中からいくつか紹介します。

「バンドをやってる友達」

本流から外れる曲をいきなりぶつけてしまい恐縮ですが(しかもゲストボーカル曲)、とにかく歌詞が好きなので一番最初に紹介させていただきます。ゆらゆら帝国の曲の歌詞からは、歌詞というより詩という印象を受けます。どこまでも素朴でありながら、描き出す世界は広大で、聞く人の心を暖める曲があったと思えば、凍てつく寒さを感じさせる曲があり、あるいは底抜けにユーモラスで、そして性的で気味の悪い曲さえ当たり前のように並んでいるというレパートリーの広さに恐ろしい資質を感じさせます。そして、単にレパートリーが広いだけでなく、相反するような性質が併存している曲さえ書けてしまうバランス感覚を持っている辺りが本当に恐ろしいです。

曲の話をすると、この曲は歌謡曲的な色合いが強く、バンドの曲全体で見るとやや異質な作品となっています(尤もこの曲が収録されているアルバムの楽曲全体に言えることではあるのですが)。構成は、ボーカルがあってベースが伴奏して、他のパートは要所要所で出てくる程度、とミニマルと言えそうなほどシンプルです。そうでありながら、朴訥な優しさと滑らかさが同居した不思議なベースリフのおかげでしょうか、強い包容力と確かな満足感があります。

ちなみに後に出たベスト盤にはこの曲を坂本慎太郎が歌うアレンジが収録されています。

「次の夜へ」

甘美な音色のギター、ボーカルにぴったりと寄り添うベース、そしてコーラスが作る浮遊感ある幻想的な空気の中で、確かな足取りを思わせるドラムスが背中を押してくれるような曲です。世のポップスやロックには音楽に文章を載せただけの曲が少なくない(と私は烏滸がましくも思っているの)ですが、この曲については、歌詞のメッセージとバックトラックの曲調が完全に調和していて、両者が合わさった一つの塊として隙がないように感じています。

元々シングルとして発表された本作のリミックス版として「次の夜へ 12” exended remix」というものもあります。原曲からして長いのですが、さらにイントロ部分が追加されたことで、10分超の大作となっています。こちらも必聴。

「空洞です」

邦楽ロック最高傑作との呼び声高い、ゆら帝最後のアルバム「空洞です」の最後を飾る曲です。前奏や間奏部分で鳴っている、コンガかボンゴ?(無知なもので区別がつかない)の乾いた音が、いかにも空洞といった感じで好きです。そして、曲の後の方で入って来るサックスの音が本当に甘美で、するりとバンドサウンドに入り込んで、後奏に向かって歌詞の隙間を通り抜けていく按配が実に巧み。最後にフェードアウトしていくのも爽やか。ゆらゆら帝国というバンドのキャリアの果てとしてこの上なく相応しい曲だと思います。

ちなみに「空洞です」については、是非ともアルバムの一番最初から最後まで全曲通しで聴いて欲しいです。一般受けしないような曲もあるのですが、一度通して聴いていただければ、きっとその名作たる所以を分かっていただけるかと思います。私は全曲コメントを書きたいくらい好きです。

ここに挙げたように、ゆら帝の後期作品には心地よい虚無感を帯びた曲が多いのですが「結局虚無ってるだけじゃん」とお思いになる方もいるかもしれません。そんな方には、こちらの曲を聴いて欲しいと思います。

「君はそう決めた」

Play

作詞を担当していた坂本慎太郎がバンドの解散後に制作したソロ曲。空っぽになってしまったところから、ふと湧き出す感情や何気ない興味、そんなものが歌になったような曲です。ぜひMVを見ながら聴いて欲しいです。なんとこのMV、坂本本人がiPadで制作したそうです。多才!

坂本慎太郎の多才エピソードは他にもありまして、なんと「音楽」というアニメ映画で声優を務めたこともあります。

「音楽」について

「音楽」は大橋裕之による漫画を岩井沢健治監督が映像化した作品です。原作漫画で描かれる感情の昂りを、直感を揺さぶる映像表現でぶつけてくる傑作なのですが、劇中歌がとても素敵だったので紹介します。ネタバレ注意です。

「ばんからばくち」

作中に登場する「古美術」というバンドによる劇中歌です。詳しい方なら曲名でお察し頂けるでしょうが、この曲は、はっぴいえんどの「はいからはくち」のオマージュとなっています。そして、オマージュ作品として滅茶苦茶クオリティが高いです。ボーカルの声の裏返り方が、実にはっぴいえんどらしいです。また映画のストーリーに合わせて、曲全体で茶目っ気が爆発しているのも素敵です。ちなみに「古美術」の曲は何故かベスト盤としてCDが出ていて(この通り配信もあります)、映画に登場しない曲も収録されています。

「ミッドナイト・リフレクション」(カバー)

さて、アニメ映画といえば、今年は「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」が大いに盛り上がりましたね。その劇伴の中では、私は「ミッドナイト・リフレクション」が気に入りました。そして見つけたのがこちらのカバー。なんと音声合成ソフトによるアカペラ。メインボーカルは「宮舞モカ」というライブラリなのですが、これが非常に人間らしい歌い振りで、技術の進歩に驚かされます。ラスサビの手前の部分でブレイク(バックトラックが静かになるやつ)があるのですが、宮舞モカの声の力強さを活かす、原曲よりもガッツリ音を引き算したアレンジが最高にカッコいいです。他の部分の編曲も非常に凝っていて、アカペラで曲を盛り上げる工夫が随所に感じられます。例えば原曲からリズム感を結構いじっていたり、サビの「ミッドナイト」というところで声をダブらせたりしているなど。このカバーの投稿者の方は他にも優れたアカペラ作品を投稿しているので是非聴いてみてください。もちろん原曲もお忘れなく。

「東方錦上京」楽曲について

東方サークルの記事で東方について触れないのもアレなので、最後に今年頒布された錦上京の楽曲について書こうと思います。配信が待ちきれない。

「錦の上の巫女」

タイトル曲から度肝を抜かれました。ベースが他のパートに先んじて例のフレーズを奏でているのが印象的。いつか演奏してみたいです。そして何よりウワモノのストリングスが優美ですね。ゲームを一通り遊び終わってから振り返って、幻想郷の日常を歌い上げることこそがこの曲のテーマだったのか、などと思ってみたり。

「フォーカラーラビリンス」

3面でピラミッドと変な探検家ヤローがお出しされたところに、4面でちゃんとミイラ(みたいなヤツ)が出てきてくれたのには安心しました。まあ結局4ボスも変なヤツだったのですが。曲を聴いた印象としては、ピラミッドに囚われてもう逃げられないぞ、といった感じがありました。ボスとの会話に入る直前のパートで同じフレーズが何度も繰り返されるあたりはまさに迷宮。中ボス戦のところの対旋律がカッコいい。

終わりに

文学や音楽、その他芸術作品に対する他人の感想を読んだり聴いたりするのが好きです。私の他にも同じような興味を持った人がいたら喜んでもらえるかと期待して書きました。楽しんでいただけたら幸いです。

さて、昨日の記事が演奏会についてだったということで二日連続で音楽について書いていますね。そして、なんと明日も音楽の記事が出るようです! 担当はゆーり君、乞うご期待!